その夜は、息苦しさでほとんど眠れなかった。
そして迎えた朝。
いよいよ、医大での診察。

半年ごとに検診で会っていた先生は、
いつもより優しく、でも目には強い意志を宿していた。

紙に簡単な絵を描きながら、治療の説明が始まる。

・TC療法
・免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」
・血管新生阻害薬「アバスチン」
これらを組み合わせた化学療法を6クール。

一通り聞いたあと、私は正直に伝えた。

「延命するだけなら、やりたくありません」

その瞬間、先生は間髪入れずに言った。

「根治するためだから!」

少し怒ったような口調で、
でもその目は、うるんでいた。

その言葉を聞いたとき、
不思議と心が落ち着いた。

——やるなら、意味のある治療を。

そう思えた。

それでも、初めての抗がん剤は怖かった。
特に怖かったのは「吐くこと」。

自分は嘔吐恐怖症なんじゃないかと思うほど、
吐くことが怖い。

「お酒、弱くないよね?」
「はい」
「じゃあ大丈夫だわ」

抗がん剤を溶かす際にアルコールを使うこともあり、
お酒に弱い人ほど吐き気が出やすいらしい。

一番大きな不安が、少しだけ軽くなった。